絵が描けなかった漫画制作会社の新人が「まんがのそざい」でまんがが売れるようになった話 第4話
前回のお話:第3話
漫画が作れない新人のために始動した「まんがのそざい」で、新人が漫画の仕事がもらえるようになった話。
企画の始動は、2022年1月。
あのビッグプロジェクトから誕生した、誰でも描けるモブキャラクター。
老若男女の概念もなくした完全な無個性なキャラクターを〈まめ〉と命名し、どんな素材を作るかと考えるところから始まりました。
〈まめ〉は漫画のキャラクター基本的な形で、漫画を作るための素材。
このコンセプトが最初に決まり、その後は制作会議で様々な意見交換をしました。
「どんな物語にも使えるような柔軟なものになったらいいね」
「漫画の絵で大事なのは動きを見せることだから、
動きとか仕草で何を表しているかが伝わるものようなものを描こう」
ベテランの長年の経験や感覚を反映させて〈まめ〉の方針が固まっていきました。
私はまずフリー素材といえばの、あのサイトをお手本によく使うポーズや仕草をリストアップ。
リストは膨大な量になり、スタッフ全員で手分けして素材を作っていくことに。
描いてほしいポーズを各ベテランにお願いするのですが、この果てしない作業は順調には進みません。
制作会議でベテランスタッフからは、
「どういう状況でそのポーズをするかイメージが湧かないと描けないんだけど…」
「普通に漫画描いた方が楽なんじゃないの?」
といった意見や、
新人のために、まだ収益にもならないのに時間を割いて作ることへの疑問や不満も。
ベテランの制作のスピードが落ちると、社長が1日で50個以上もの〈まめ〉を描いて「これくらいの時間ででできる仕事だから!」と見せることもありました。
こうして社内で内紛を起こしながらも〈まめ〉の種類を増やしていき、1,000点以上の〈まめ〉が誕生しました。
進行管理をしていた私は、苦労を掛けていて申し訳ないという気持ちと、絶対にこれで売れるようになって恩返ししたいと強く思うようになっていきました。
1,000点以上の〈まめ〉を使って本当に漫画ができるのか?
私は、自社の制作事例の漫画で〈まめ〉を使ってみる事にしました。
「キャラクターとセリフのバランスが…」
「ここはセリフで言うよりシーンで見せた方が伝わりやすいよ」
社長やベテランのアドバイスを受けて、プロの漫画の構成を学びながら、素材を組み合わせていきます。そうして私は、ようやくはじめて漫画を作る事ができたんです!
絵はすべて〈まめ〉だから、誰が作ってもベテランと遜色のないクオリティの漫画ができるというところも達成感があります。
「私にも漫画ができた!」この経験は自信にも繋がりました。
「これはすごいぞ!〈まめ〉なら絵を描かなくても漫画ができてしまう!」
「『吉』と出るか『凶』と出るか…とんでもないものを作ったかもしれない…」
社長は興奮して身震いを起こしていました。
「もっと他にできることはないかな?」
社長は、新人(私)を売るための宣伝として〈まめ〉をフリー素材にしようと提案しました。
〈まめ〉を無料のサービスにすれば、誰でも使えて漫画がつくれると注目を集める。
無料で漫画を作れるけど、それが面倒な人は制作を依頼するから新人の仕事になるし、オリジナル漫画制作の受託の仕事にも繋がるかも知れない。新人だけじゃなくて、会社全体の宣伝するのにも〈まめ〉は重要な役割を果たす予感がしました。
「まんがのそざい」は、会社の新人だけじゃなく、他のクリエイターも取り入れやすいのではと考えた社長は「「漫画を描いて生きる!」という会社の理念にも沿っている!」と目を輝かせていました。
私のために始まった企画が、まさかこんな風に話が広がるなんて…
つづく
次のお話:第5話